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腫瘍と免疫の相互作用

がん免疫治療に関するデータ解析の連載1つ目のトピックです。 ここでは、がん免疫サイクル、がん免疫編集、そしてがん免疫ゲノミクスついて簡単にまとめます。

がん免疫サイクル

がん免疫サイクルの最初のステップはネオアンチゲンの生成です。ネオアンチゲンとは、体細胞変異由来のペプチドのことです。 腫瘍の体細胞変異は数十〜数万になるので、ネオアンチゲンは分子レベルで腫瘍細胞を不均一(heterogeneity)にしています。

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http://dx.doi.org/10.1038/nrg.2016.67 Fig1Aより

  • ネオアンチゲンは、主要組織適合遺伝子複合体 MHC(ヒト白血球抗原 HLA)によって抗原提示細胞 APCの表面に提示されます。
  • がん細胞死後のネオアンチゲンの放出が様々なプロセスを開始することによって、分子的に不均一なT細胞を拡大します。
  • T細胞とネオアンチゲン-MHC複合体との相互作用によって、個々のTCRががん細胞を認識します。

がん免疫編集

腫瘍内の免疫浸潤は分子レベルのheterogeneityに加えて、自然免疫および獲得免疫に関連する多様な亜集団からなる細胞レベルのheterogeneityをもっています。 例えば、メラノーマやマイクロサテライト不安定性の大腸がんのようなネオアンチゲンを多く持つがんでは、多くの免疫亜集団に深く浸潤されますが、変異率の低い腫瘍ではとても低い浸潤レベルを示します。 免疫浸潤の結果、進行中の腫瘍表現型は「がん免疫編集」というプロセスで生じます。これらの分子・細胞レベルでのheterogeneityは、腫瘍免疫細胞相互作用の複雑なネットワークを形成していて、 そのネットワークと抗腫瘍免疫のメカニズム解明の大きな課題になっています。

がん免疫ゲノミクス

がんゲノミクスプロジェクトととして有名なTCGAICGCは、2万6千人以上のがんサンプルから得られた3千万以上の腫瘍変異の豊富な情報を提供しています。 免疫ゲノミクスにおいて巨大コホートはまだないですが、特にがん免疫ゲノミクスはライフサイエンス領域におけるビッグデータになると考えられています。 理由としては、

  1. HLA領域は個々人のゲノムの4〜5百万変異の半分以上のSNPを占めており、獲得免疫系がヒトの遺伝子変異に最も関与している
  2. 免疫細胞は200以上の種類があり、300以上の免疫細胞の状態遷移が存在する(例えば各細胞および各細胞状態に対する1300種類の薬剤の影響に関する発現プロファイルのデータベースは、0.1ペタバイトのRNA-seqデータになる)
  3. 異なるTCR αβ対(約1020あるとされるヘテロ二量体TCRを構成するα-およびβ-サブユニットの組み合わせ)の数、HLA対立遺伝子(> 13,000)の数、TCRレセプターに結合する抗原(2.5×1010〜1.6×1018)の数を考えると、TCR-ネオアンチゲン-MHCの複合体の数は膨大になる

からです。

ここまで腫瘍と免疫の相互作用についての概要になりますが、複雑なネットワークと抗腫瘍免疫のメカニズムの解明にはゲノミクスツールの開発とデータ解析が必須になってきます。

ということで、次回はオミクスデータ解析の概要を見ていきます。