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常在細菌叢のメタゲノム解析

皆さんこんにちは。今回はAmeliPress 7月号の内容といたしまして、近年健康との関係が注目されている常在細菌叢の解析関連の話題を取り上げます。 知っていて損はない内容となっておりますので、ぜひ一読してみてください。

常在細菌叢のメタゲノム解析

 私たち人間の体の皮膚や粘膜面には、数百兆個とも言 われる数の細菌が共生的にそれぞれの部位によって固有の集団を形成しており、これらは常在細菌叢と呼ばれています。特に大腸内腔は細菌の生育にとって最適な環境であるため、高密度の細菌が生息していると考えられており、「腸内細菌叢」と病気や健康との関連が、古くか ら注目されてきました。従来の細菌叢研究は、菌を培養 し、その性質を調べる方法が主流でした。しかしこの方 法では、全体の 9 割以上を占めると言われる培養が難しい細菌やごく少数しか生息しないような種類の細菌の性 質を調べることが困難であったり、人間の生体内に生息 していた時と培養後の振る舞いが必ずしも一致しないなどの問題を抱えていました。

 近年研究機関への普及が進んでいる次世代シーケンサ を用いた「メタゲノム解析」はこの点を解決します。すなわち、細菌叢から培養を経ず DNAを抽出して配列を決定するため、培養が難しい種類の細菌やごく少数しか存在しない細菌の解析が可能になったのです。中でも、全ての細菌が保有しておりかつ多様性の見られる 16SrRNAの配列がよく調べられており、微生物の同定か系統解析などが可能です。解析にはオープンソースの QIIMEやMothur といったソフトウェアが一般的に用いられています。この技術的進歩により常在細菌叢についての多くの知見が得られ、健康状態との密接な関係が明らかにさ れつつあります。例えば、腸内常在細菌叢は肥満やアレルギーなどの生活習慣病や食生活との関連が示唆され、今後も関心が高まっていくことが予見されています。

海外の大規模メタゲノムプロジェクト

 常在細菌叢に大きな関心が集まる中、海外でも人間の 生理や疾患、免疫機能との関連を深く理解することを目指す国際プロジェクトが始動しています。2008 年 1 月 には中国とヨーロッパ諸国合わせて 8ヶ国による MetaHIT (Metagenomics of the Human Intestinal Tract) プロジェクトが始まっています。MetaHIT はその始動以来、人間の病気と腸内細菌叢の関連を突き止めるため、腸内細菌叢遺伝子カタログの更新や、新たなバ イオインフォマティクスツールの開発を進めてきました。また、米国でも国立衛生研究所 NIH が HMP (Human Microbiome Project) を主導し、疫学研究を通じて人体内に住む全ての微生物マイクロバイオームのデータセットを構築しようとしています。

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図 1 MetaHIT のプロジェクト内容と成果、展望
出典 http://www.metahit.eu/